2022年9月22日にIMRDの1学期が始まり、2023年2月1日でテストが全て終わりました。
今回の記事は、1学期に何を勉強したのかを、備忘録的な意味を込めて書いています。
個人的な日記に留めておくつもりでしたが、もしかしたら興味がある方がいるかもしれないと思い、ブログで書いてみることにしました。
目次
1. SDG Lab
グループワークとプレゼンテーションがメインの授業です。12週の授業が3分割され、4週ごとにテーマや課題、グループも変わります。
SDG Environment, SDG Economy, SDG Society の3つが主なテーマで、グループ課題や講義、参考文献を通して、農村開発分野の課題を勉強します。
12週で3つのグループワークをすることになるため、チームとしてどのように動くかや、チーム内で自分がどのように振る舞うか、等々を考える機会を多く得られます。
1-1. SDG Lab Environment
Environment の中でも4つのケースが用意されていて、その中から1つ選択します。以下そのケースです。
- Spatially-explicit participatory tools for the analysis of social-ecological systems
- Critical assessment of high technologies as mediators of society-biosphere interactions
- Institutional analysis of grassland governance
- Environmental policy integration in the implementation of the Common Agricultural Policy
最終成果物は全てのケースで共通で、12,000字以上のレポートをチームで仕上げることです。ただ、テーマごとに異なる担当教授が決まっていて、読むべき文献や扱う国・地域も異なります。4人で1グループになり、提示される課題の量・期待値と課題の締切を踏まえて、自分たちで作業のペースを決め、教授からのフィードバックの頻度も自分たちで決めていきます。
私の場合は、1つ目の Spatially …” を選択して、パキスタン、フィリピン、ウガンダ出身の仲間とチームになって、GIS (Geographic Information System) を用いた農村開発を広く浅く学びました。
各国のアクセントや meeting への臨み方、意思決定の進み方に戸惑いながらも、なんとかやり切ったという感じです。4週間という短さもあって、感じた戸惑いについてゆっくり考えて、「次の meeting はこうしてみよう」と思い直す余裕がなかったことが、反省の1つです。
1.2. SDG Lab Economy
Economy では、「Short Food Supply Chain (SFSC) 」を共通テーマとして、SFSC の維持・改善に関わる8つの Stakeholders が用意されていて、その中から1つ選択します。(1) Digital tools supplier, (2) supermarket, (3) farmers, (4) multifunctional farmers, (5) farmer association, (6) (existing) consumers, (7) new consumers, (8) EU government の8つが選択肢です。
Environment との大きな違いは、各グループが それぞれの Stakeholder を代表し、8つの異なる視点・関心の調整をクラス全体で議論することです。実際、教室の机を円形に並べて、グループから代表者を出し、議会のようにグループ間で議論をする機会があります。「farmer としては、こういうことをしてほしい」「政府としては、それはちょっとお金かかりすぎ」「じゃあどうやって調整する?」… といった塩梅です。
こうしたグループ間の活動に加えて、グループ内での課題もあります。最終成果物は、A4・5ページほどの Policy Brief の提出と、Pocily Brief のプレゼンテーションです。私のグループでは、(4) multifunctional farmers がテーマで、「farmers が、agrotourism 等の farming に対して副次的な活動を通して、どのように SFSC の維持・改善に貢献するべきか」を Policy Brief にまとめました。
グループついては、5人1グループで、ミャンマー、フィリピン、バングラデシュ、ハイチ出身の仲間とチームでした。Environment のときに比べれば、多国籍な環境でのグループワークに慣れてきて、「多国籍な環境ならこういう言動が大切なのかも」というアイデアが自分の中で生まれることが多くなりました。
1-3. SDG Lab Society
Society では、Environment のように4つのケースが用意されていて、そのうちから1つ選択します。以下そのケースです。
- Floods & Landslides in Karnataka State (India)
- The cattle conundrum – a case study of the livestock chain and rural development (South Africa)
- Mega basins in Saint Soline (France)
- Repurposing of Campus Coupure as accelerator for sustainable food system transitions (Belgium)
10人前後で1グループになり、最終成果物のプレゼンテーションの準備を進めます。グループ内でも Economy のケースのように Stakeholders ごとでサブグループを作り、1サブグループ3人ほどで作業をします。
私は3つ目の Mega basins のケースを選んで、農業用水を確保するための貯水池建設をめぐる問題(環境への影響、市民の反対・デモ、政策の妥当性、etc…)に対して、どのような政策が必要なのかを学びました。サブグループは (1) stakeholders, (2) facilitators, (3) experts の3つがあり、私は experts のグループで、文献や記事を読み込んで他のサブグループの議論を根拠づけする役割でした。
グループは、イラン、インドネシア、エチオピア、スペイン、中国、フィリピン、フィンランド、ブラジル出身の仲間とチームで、引き続き多国籍なグループでしたが、3回目は国籍をそれほど気にすることなく、より議論や作業自体に集中できたと思います。
2. Scientific Communication
論文の書き方や論文雑誌に提出する方法を学ぶ授業です。最終成果物として学術論文の提出が求められますが、実際に何かを調査して分析するところまではやりません。与えられるトピックから興味があるものを1つ選んで、まずは参考文献を読み、Research Gap を見つけます。それをもとにRQと仮説を立て、論文の方向性を示すところまでをまとめます。
参考文献の調べ方や読み方、先行研究の引用の仕方(in-test & reference list)、論文の提出先の調べ方や選び方、学術論文で適切な言葉遣い、等々を座学形式で学びます。それを踏まえて、授業外の時間でこなす課題として模擬論文の執筆を進めて、定期的に担当教員から1対1で細かくフィードバックが入ります。
私の場合は、Food Sovereignty を大きな分野として、その中でも Farmers’ movements を選びました。最終的にプエルトリコの Food Sovereignty に注目する方向性で進め、修士論文の執筆に向けて「論文執筆でどんな作業が必要で、それぞれの工程でどれほど時間がかかり、どんなことに意識を向ければいいのか」を具体的にイメージする機会になります。
3. Applied Statistics
統計学をソフトウェア R を使いながら学ぶ授業です。週に2コマ授業があり、1コマは理論を学び、もう1コマはコンピュータで実際にコマンドを打つ演習形式です。理論の授業は1.5時間ほどの一般的な座学で、演習の授業は4.5時間の長時間授業で、大学から PDF で配布される問題を各自解いて、授業の最後に解説を聞く、という流れです。
内容は基本的なものが多く、R Studio のダウンロード方法や画面の見方から始まり、記述統計、度数分布・ヒストグラム、Rでのグラフの作成方法、確率分布、平均値の比較(One-sample t-tests, Two-sample t-tests, ANOVA, etc)、回帰(Simple & Multiple) 等を学びます。
分析を回す関数(t.test, aov, lm, 等々) だけでなく、分析を回す前に確認しなければいけない事項(independent vs paired data, normality, homoscedasticity, 等々)についても細かく解説が入り、かなり実践的な授業です。
4. Applied Rural Economic Research Methods
学術研究における研究手法を、大雑把に学ぶ授業です。Qualitative Analysis と Quantitative Analysis の比較など、研究手法を抽象的に分類するところから始まり、その後、具体的な分析手法を学んでいきます。以下、具体的な項目です。
Frequencies, Histogram, Descriptives, Chi-squared tests, Mean Comparison, Correlation, Cluster Analysis, Factor Analysis, Regression Analysis, Experiments research, Auctions, Choice experiment, Difference in Difference, Mathematical Programming, Calibration, General Equilibrium Model (SAM), Agent Based Model, …
座学形式のコマでは、それぞれの分析手法の強みと弱みを知り、それぞれの手法を用いるのに適した状況を整理していきます。実践形式のコマでは、一部の分析手法を統計ソフトの SPSS を用いて実際に試して、結果の解釈の仕方を学びます。
分析手法に関する専門用語を網羅的に学ぶことができるため、学術論文を読むのがとても楽になります。また、それぞれの分析手法に対して、どんな場面でその分析手法を選択すればいいのかを理解することができるため、修士論文やその後の研究活動にとても役に立つ知識が身につきます。
ただ、それぞれの分析手法の理解は大雑把なものになります。例えば、Factor Analysis について、Factor Loadings や Varimax Rotation 等が何を意味するのかをなんとなく理解できても、その背後にある細かい理論までは授業で扱いません。なので、応用的なことを修士論文等でやりたい場合は、さらに自ら学ぶ必要があります。
5. Micro-Economic Theory and Farm Management
1つの授業にたくさんの要素が詰まっていて、学期中はその分量に対してかなり不満を漏らしてしまいましたが、今こうして振り返ると、相当濃い授業で頑張ってよかったなと思います。授業の構成は、大きく分けて (1) 理論、(2) 演習、(3) グループワーク、(4) エクスカーション、の4つです。
5-1. 理論
理論のコマでは、経済理論を広く浅く学びます。テーマは大きく分けて、Production Functions、Farming System、Efficiency Analysis、Transaction Costs Theory の4つです。農業経済学や農学を深く突き詰めるということはせず、理論の基本を理解しながら、理論が当てはまる具体事例を「農村開発」の文脈で学習します。
1つ目の Production Functions で扱う内容は、ミクロ経済学の基本で、production technology, isoquant, production possibility curve, the law of diminishing marginal return, production elasticities, optimisation problems, … 等々です。
2つ目の Farming System では、Farming に対する研究の視点を学びます。Farming の研究において研究者の役割は何か、Farming の担い手の視点を研究に反映させるにはどうすればいいのか、農家を単なる1つの経済主体としてではなくシステムの一部として捉えるべきではないのか、多種多様な Farming や Farmers をどのように分類するのか、等々が主なトピックです。
3つ目の Efficiency Analysis は、production function の理論を踏まえて、ある生産活動の効率を分析する方法を学びます。まずは効率を測る主な指標として、Technical efficiency, allocative efficiency, economic efficiency の3つがあることを学び、その後で実践的な分析手法として、Data Envelopment Analysis や Stochastic Frontier Analysis を学びます。
最後の Transaction Costs Theory (TCT) では、TCT を1つの経済理論としてざっくり学びます。例えば、Transaction Costs とは何で、どんな状況で発生し、どうしたら減らせるのか、等々が具体的な項目です。
5-2. 演習
演習のコマでは、6回に分けて実務的な経済分析の演習をします。演習のテーマは以下です。授業前半で分析の理論的な背景を学び、後半で問題を解く時間を与えられ、授業の最後に解説を聞くという流れです。
- Valuation and depreciation (discounting 等の会計の知識が中心)
- Cost-price, cost division and profitability analysis(同じく会計の知識が中心)
- Investment analysis(Net Present Value, Internal Rate of Return, Payback Period, etc)
- Production theory(微分をしたり、利潤最大化の方程式を解いたり…)
- Mathematical programming(Excel の Solver add-in を使って分析)
- Risk and uncertainty (Wald, Salvage regret, Hurwicz, Laplace, Bayes 等の評価方法)
5-3. グループワーク
理論と演習の座学と並行して、グループワークをこなすことも要求されます。1グループ5人で、farming system について25ページほどのレポートを書きます。グループで具体的な農家を一つ決め、その農家にコンタクトをとり、収入や費用等のデータを集めます。それをもとに、その農家の活動に対して、Cost&Benefit Analysis, SWOT Analysis, Investment Analysis (Net Present Value, Internal Rate of Return, etc.)をします。私のグループでは、インドネシア、中国、ベトナム出身のクラスメートとチームになり、インドネシアのカカオ農家のケースを扱いました。
5-4. エクスカーション
学期中に数回、ゲント郊外にある農家を訪問し、農家の施設や生産、地域貢献等の取り組みを学びます。キャンパスで学ぶだけではなく、実際に農家を訪れて自分の目で見て感じる機会が得られるのは、とても貴重だと感じます。
だらだら書いてしまいましたが、Erasmus Mundus IMRD、Ghent 大学の修士課程はこんな感じです。グループワークが多国籍であること、理論と実践のバランスが絶妙であること、「農村開発」というテーマに対してかなり specific なこと、等が特徴でしょうか。
こうして振り返ってみると、まだまだ消化し切れていない違和感や成長の機会が残っているなと感じます。大学院という場に限らず、みなさんが何か新しいことを学ぶ環境はどんな様子でしょうか。振り返ると何か気づきがあるかもしれません …